Nature Careers 特集記事

政府の資金不足はますます深刻化するが、研究投資は雇用を促進するのみならず、不況を跳ね返す力になる可能性がある

2008年11月20日

Gene Russo
Naturejobs editor

Nature 456, 275 (12 November 2008) | 10.1038/nj7219-275a

米国のFranklin Roosevelt大統領は、厳しい金融危機に対処すべく国内の道路とインフラに投資した。そして現在、世界的な景気後退を目前に次期米国大統領に選出されたBarack Obama氏も、同じことを公約に掲げている。このような建設プロジェクトは、雇用を創出し、製品やサービスの輸送および配達を支援することで、不況時に切望されている起爆剤となるだろう。一方、科学への投資からも同様の見返りを得られる可能性があるという声も聞かれる。

フィラデルフィアにあるペンシルベニア大学のEdwin Mansfield氏の試算によると、学術研究に投資した1ドルは、1.28ドルの社会的利益を生むという(E. Mansfield Res. Pol. 20, 1–12; 1991)。また同氏は、大学で研究が行われなければ開発されていない薬品もある、という例を示した。とりわけ生物医学研究に取り組んでいるイリノイ州シカゴ大学の経済学者、Kevin Murphy氏とRobert Topel氏は、心臓疾患による死亡者数が減少したことで、1970~1990年の間に年間1兆5,000億ドルの経済効果が生まれたと主張している。人々の勤労生活が長くなり、生産性も上がったからである。2人はまた、がんによる死亡者数がわずか1%減少するだけで5,000億ドル程度の節約になるという数字を割り出した(K. M. Murphy and R. Topel The Economic Value of Medical Research; Univ. Chicago, 1999)。こうした根拠から、多くの国では、たとえ裁量支出が乏しくても科学予算の優先順位を上げるべきではないだろうか。

もちろん、そうしている国もある。例えば中国では、経済成長率が大幅に落ち込んだにもかかわらず、相変わらず環境科学や生物医学研究の主要なプロジェクトに断固として肩入れしている(page 155を参照)。また米国ではObama氏が、「グリーン経済」への政府のテコ入れで雇用を生み出すこと、おそらくは石化燃料にあまり依存しない自立産業を生み出すことを提唱している。一部の政策立案者にとっては直観に反しているかもしれないが、研究費を慎重に支出すれば、それが景気浮揚につながる可能性がある。ただ金庫の金を使い果たすというわけではない。科学の進歩のための橋や道路の建設もまた、十分な投資に値すると思われる。

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