シンガポールに黄金時代が到来か
2008年10月30日
Paul Smaglik
Moderator of the Naturejobs
Nature 455, 1143 (22 October 2008) | 10.1038/nj7216-1143a
シンガポール国内の科学技術行政は、大規模プロジェクトを立ち上げる潤沢な資金があり、それらを管理する権限を集中させているという点で、映画の黄金時代におけるハリウッドのスタジオに似ている。また、大きな投資収益も期待でき、有名科学者を惹きつけておくこともできる。
そういうわけで、シンガポールの科学スタジオは再びレッドカーペットを広げている。巨大なバイオクラスターを目指すバイオポリスを誕生させてから5年がたった今、シンガポール政府は物理科学の研究拠点となるフュージョンポリスをお披露目した(1144ページを参照)。バイオポリスの興行成績は玉石混交といったところだ。5億シンガポールドル(3億4,000万米ドル)を投じ、7つの建物で構成する複合施設は有名科学者と契約し、数多くの論文を生み、複数の多国籍企業や国際的レベルの大学の付属機関の誘致に成功した。しかし、技術移転による目立った収益はまだ生み出していない。ツインタワーのフュージョンポリスは、マイクロエレクトロニクス、素材、コミュニケーション、計算科学に重点を置いているが、これはおそらく安全策なのだろう。生命科学の基礎研究は、結果が出るまでに数十年、数億ドルを要する場合が多いのに対し、素材や情報テクノロジー(IT)はわずか数年、数百万ドルで済む場合がある。
科学スタジオの経営者はバイオポリスの基礎研究重視の姿勢に、少なくとも特許や製品が比較的少ないことに苛立ちを募らせているようだ。バイオポリスの諮問委員会では臨床・トランスレーショナル科学への投資を増やしたばかりだが、フュージョンポリスは基礎研究を迂回しようとしているか、少なくとも早急な研究から一気に応用科学へ移行しようとしているように見える。フュージョンポリスのプロジェクトの中には、廉価で高速なゲノム配列解析技術など、バイオポリスのプロジェクトとうまく連動しているものもある。
今のハリウッドを見ていると、莫大な予算とインディペンデント映画の共存が可能であることが分かる。隣接するバイオポリスとフュージョンポリスという複合施設は、物理学と生物学、基礎研究と応用研究、多額の予算と少額の予算とをどう連動させるかの試金石になる。当面は極めて興味深い検査スクリーニングの対象候補が勢ぞろいしている。