LHCは米国の高エネルギー物理学の研究機会を促進するか、喪失させるか
2008年9月18日
Gene Russo
Naturejobs editor
Nature 455, 257 (10 September 2008) | 10.1038/nj7210-257a
大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の稼働開始まであとわずか。世界中の高エネルギー物理学界は明らかに興奮していた。ジュネーブ郊外のCERN(欧州原子核研究機構)に設置されているLHCは世界最大の衝突型加速器で、ワクワクするような新たな物理学の展開に(雇用機会の展開にも)大きな期待が寄せられている。
しかし、イリノイ州バタビアにあるフェルミ国立加速器研究所の物理学者には、間もなくLHCに王座を明け渡すことになる老朽化した加速器、Tevatron の死が迫っていることで複雑な思いもあった。つまり、米国の物理学は連邦予算に対する大きな不安にもさらされており、二重に不運なのである。
「エネルギーフロンティア」が米国から欧州に移ってもフェルミ国立加速器研究所が大きな不幸に見舞われることにはならない、との声もある。LHCから間断なく流れ出てくるデータの意味を理解するには、信頼できる専門家が求められるからだ(258ページを参照)。フェルミ国立加速器研究所所長の Pier Oddone が指摘しているとおり、結局のところ、同研究所の科学者は両方の加速器に係わることになり、やがてLHCが全面的な稼働状態に達し、フェルミ国立加速器研究所がLHCの主要な目標の1つである未発見の素粒子、ヒッグス粒子の検出という最終計画を実施するころに、ようやく2つの加速器もまともに競合できるようになるというわけだ。
ただ、フェルミ国立加速器研究所での高エネルギー物理学の仕事の経験は、マシンの操作や調整に関する言語化されない知識が議論を育み、問題を解明し、新たな見識を生み出すLHCで得られるものに比べるとつまらなくなってくるかもしれない。米国を拠点とする研究者は、LHCの後継器で、大いに話題に上ったILC(国際リニアコライダー)の建設と運営の準備に当たりたいとしていたが、まだそれは支持されておらず、現在の予算も米国の物理学の悩みの種であることから、承認を得るのは難しそうだ。ある年にプロジェクト専用に予算を組んでも、議会の気まぐれで翌年には消えてしまう可能性もあり、それが国際的な巨大プロジェクトを難しくしているのである。したがって、高エネルギー物理学の仕事に関心のある人は、今後数年間は引き続き欧州に目を向けたほうがいいかもしれない。