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生殖細胞の形成に不可欠な新遺伝子を発見!

2008年9月11日

理化学研究所 再生・発生科学総合研究センター ほ乳類生殖細胞研究チーム
斎藤 通紀 チームリーダー

胎生7.0日目の胚におけるPrdm14(左)とPrdm1(右)の発現部位(白い部分)。緑色の部分は始原生殖細胞。左側は将来頭になる部分で、右側が尾になる部分をあらわす。 | 拡大する

精子や卵子を作り出し、次の世代に命をつなぐための重要な役割を果たす生殖細胞。その起源をたどると、個体が発生を始めたばかりの胎児期にたどりつく。胎児の未分化な細胞は、器官や組織を形づくる体細胞へと分化していくが、ごく一部は、特別な遺伝子がはたらいて生殖細胞へと分化していく。理化学研究所 再生・発生科学総合研究センター ほ乳類生殖細胞研究チームの斎藤通紀チームリーダー(以下、TL)らのグループは、始原生殖細胞(発生初期に形成され精子や卵子の源となる細胞)の形成に必須なある遺伝子を同定し、その遺伝子がはたらかないと、その個体が精子や卵子をまったく作り出さない成体になることを突き止めた。

生殖細胞は、体細胞とはまったく異なる性質をもっている。体細胞は一度ある系統(系譜)に分化すると基本的に他の系譜にはなれないが、生殖細胞はさまざまな細胞系譜に分化する能力を長く保っている(潜在的多能性の維持)。また、受精を介して新たな個体を滞りなく発生させるよう、生殖細胞自身の遺伝情報をプログラムする仕組みももつ(ゲノム能力の再編成)。同じ受精卵から作られるさまざまな細胞群の中で、生殖細胞にのみ、なぜこのようなしくみが備わるのか。その解明は、生物学の大きな課題の一つだった。

斎藤TLらは、マウスの発生過程を調べることで、生殖細胞と体細胞が運命を分かつしくみや、生殖細胞の特性を理解し、多能性幹細胞(ES細胞やiPS細胞)から生殖細胞を再構成することを目指した研究を続けてきた。その過程において今回、Prdm14という遺伝子が胎児期の始原生殖細胞でのみ発現し、生殖細胞の形成に不可欠であることを突き止めた。

これまで、生殖細胞の形成に直接関わる転写制御因子としては、Prdm1遺伝子(Blimp1ともいう)だけが知られていた。斎藤TLらは、独自に開発した「単一細胞マイクロアレイ法」等を用いて、生殖細胞の形成に関わる新たな遺伝子群の探索を試みた。始原生殖細胞が作られるあたりの領域を小さく切り出したあとで単一の細胞にばらし、マーカー遺伝子を用いて始原生殖細胞由来の細胞を見つけ出し、そこで特異的に発現している遺伝子群を探したのである。

「今回のPrdm14は、こうしてみつけた遺伝子の一つで、やはり転写制御因子だった。始原生殖細胞は胎生6.25日くらいに誘導され、発生しつつある後腸と腸間膜のなかを移動し、胎生10.5日目以降に生殖原器に達して精子や卵子への分化を行う。Prdm14は胎生6.5日目くらいから始原生殖細胞での発現を開始し、始原生殖細胞の生殖原器到達後2〜3日目にその発現を終える」と斎藤TL。Prdm14遺伝子が始原生殖細胞の形成に必須であり、生殖細胞の特徴である「潜在的多能性の再獲得」と「ゲノムの再編成」に関与していることを突き止めた。

Prdm14遺伝子が変異すると、個体は正常に発生するものの、始原生殖細胞がなくなるために、精子や卵子を全く作らない不妊になる。斎藤TLは「Prdm14が変異すると、その下流の遺伝子の発現も異常になる。その結果、始原生殖細胞は潜在的な多能性を失い、ゲノムの再編成もおきなくなってしまうのだろう」とコメントし、このような異常による不妊がヒトにもあるかもしれないとしている。

Prdm14は生殖細胞の形成には必要不可欠だが、体細胞にPrdm14遺伝子を発現させても生殖細胞にはならないという。また、Prdm14遺伝子がどのようにして多能性の再獲得に関与するのかなど、生化学的なメカニズム解明も残っている。「多能性幹細胞を生殖細胞に誘導するには、その条件を厳しく検討することが必要だ。今回の成果は、そうした検討を進めていく上で非常に重要な手がかりとなるだろう」と話す斎藤TL。数多く残された生殖細胞の謎に迫るべく、研究を加速させている。

西村尚子 サイエンスライター

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