Nature Careers 特集記事

NIHのグラント審査の問題点が統計から浮き彫りに

2008年8月14日

Gene Russo
Naturejobs editor

Nature 454, 801 (6 August 2008) | 10.1038/nj7205-801a

先月発表された2つの研究によると、米国立衛生研究所(NIH)のグラント審査には厄介な傾向があるらしい。1つ目の研究は、最優先だとの掛け声だけは大きいが、臨床研究は基礎研究にはない高いハードルを越えなければならないことを示唆している。もう1つの研究は、ピア・レビューでは評価の際に特有のバイアスがかかることを示唆している。

ウイスコンシン大学ミルウォーキー校医学部のTheodore Kotchen氏とその研究チームは、2000年10月から2004年5月にかけてNIHに提出されたグラント交付申請書を分析した(M. R. Martin et al. Am. J. Med. 121, 637–641; 2008)。すると92,922件の申請書のうち、臨床研究の申請書はわずか3分の1にも満たなかった。Kotchen氏らはこの矛盾の主な理由を2つ挙げた。第一に、臨床研究者はグラントの申請をあまり更新しないこと。更新を提出すると一般に審査官の評価が良くなるが、さもなければ不利な立場に立たされるわけだ。第二に、臨床研究者から出される申請書は、被験者についての検討が不十分なケースが多いことである。

2つ目の研究では、テキサス大学M.D.アンダーソンがんセンターのValen Johnson氏が、NIHによるピア・レビューにバイアスが生じているとして、いくつかの事例を挙げている(V. E. Johnson Proc. Natl Acad. Sci. USA doi:10.1073/pnas.0804538105; 2008)。NIH審査委員会の委員のうち、1つの申請書を実際にレビューするのはほんの数名だが、その数名が最終的なグラント交付の決定に不当な影響力を及ぼしかねないのだ。交付限度額ぎりぎりの申請書に対してバイアスがかかってしまうのは明らかだろう。Johnson氏は、より多くの申請者にグラントを交付するために、審査委員会はプロジェクトにかかる経費を査定すべきだと提案した。しかしそうなると、費用のかさむ臨床研究が不利な立場に追いやられてしまう。

2つの研究論文は、重要な障害にスポットを当てて、グラントを申請する研究者やNIHで進められているピア・レビューの改善(Nature 453, 835; 2008を参照)に有益な情報を提供してくれている。ただ、Johnson氏の提案によってさらなる不公平が生まれないかどうか、関係機関は検討すべきである。確かにグラントの交付件数は増えるだろうが、一方で臨床研究のような、合格ラインぎりぎりにいる高コストの研究は苦しむことになるだろう。

「特集記事」一覧へ戻る

プライバシーマーク制度