注目の論文

ヒトの病気と遺伝的多様性の解明を前進させる巨大なゲノム研究

Scientific Data

2015年3月25日

Giant genome study generates new understanding of human diseases and genetic diversity

単一の集団に属するヒトのゲノム塩基配列解読データとして最大のものについて報告する4本の関連した論文が、今週のNature Genetics オンライン版に掲載される。このデータは、ヒトの病気と遺伝的多様性に関する研究にとっての網羅的な情報源といえる。

今回、Kari Stefanssonの研究グループは、2636人のアイスランド人のゲノム塩基配列を解読し、2000万個以上の遺伝子多様体を同定した。この新知見は、多くの病気の遺伝的基盤についての解明を進めるために国民の医療情報や広範な家系記録とあわせて利用できると考えられる。Stefanssonたちは、このデータ資源の有用性を実証するために、この全ゲノム塩基配列データを別の10万4000人以上のアイスランド人の網羅性の低い遺伝子型データと組み合わせて関連解析を強化し、さまざまな病気に関連する遺伝子多様体を数多く同定した。このゲノム塩基配列データの威力を示す一例として、Stefanssonたちは、肝疾患の発症リスクと有意に関連するABCB4遺伝子の多様体を同定した。

このゲノム塩基配列データを用いたもう1つの研究で、Stefanssonたちは、アルツハイマー病の高いリスクと関連するABCA7遺伝子の変異を同定した。また、ABCA7遺伝子の8種の変異のうちの6種がヨーロッパ系の他の集団(米国人の集団を含む)にも存在していることも判明し、研究結果がアイスランド人の集団に特異なものではないことが示されている。

Patrick Sulemの研究グループは、上述したゲノム塩基配列データのデータマイニングを行って、1個以上の遺伝子の機能を完全に失った8000人以上のアイスランド人を同定し、この稀な遺伝子のノックアウト(機能欠損)を合計1171例も同定した。これらの機能欠損した遺伝子の中で最も多かったのは、さまざまな匂いを嗅ぎ分ける能力をもたらす嗅覚受容体遺伝子だった。一方、脳内で高発現する遺伝子が機能欠損する頻度は極めて低く、このことは、そうした機能欠損の方が害が大きいことを示唆している。ゲノム塩基配列データのデータマイニングを推進することは、必須遺伝子や病気に関連する遺伝子の解明を進めるうえで役立つと考えられる。

さらにAgnar Helgasonの研究グループは、血縁関係にある274組のアイスランド人男性(合計753人)の全ゲノム塩基配列データを用いて、Y染色体の変異率を推定した。この推定結果は、男性に特異的な変異率の推定値として、これまでで最も正確なものといえる。この研究では、ヒトのY染色体の最も近い共通祖先(MRCA)の年代が17万4000〜32万1000年前とされた。この推定年代は、母系遺伝するミトコンドリアDNAのMRCAにかなり近く、人類の進化の解明にとって重要な意味を持つ可能性がある。

以上の論文に関連してScientific Data に掲載されるSequence variants from whole genome sequencing a large group of Icelanders(アイスランド人の大集団の全ゲノム塩基配列解読によって判明した配列多様体)という論文には、関連する遺伝子とゲノムの多様体データだけでなく、重要な方法の詳細やその他の情報も記述されており、他の研究者によるこれらのデータの利用に役立つようになっている。

doi: 10.1038/sdata.2015.11

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