【動物学】クヌートの死の真相
Scientific Reports
2015年8月28日
Zoology: The curious case of Knut
ベルリン動物園(ドイツ)で人工飼育されて有名になったホッキョクグマのクヌートは、2011年に動物園のクマ舎でてんかんの発作を起こし、そのままプールに落ちて溺死した。今週掲載される論文によると、クヌートは抗NMDA受容体脳炎(抗NMDAR脳炎)という治療可能な疾患にかかっていたと診断され、これがヒト以外で初めての抗NMDAR脳炎の症例となった。
クヌートの死後に行われた病理解析では、クヌートが脳炎(脳の炎症)にかかっており、それがてんかんを引き起こし、クヌートの死につながったことが判明した。しかし、細菌、ウイルス、寄生虫のいずれによる脳炎なのかを突き止めるための調査では明確な結論が得られず、「原因不明の脳炎」という診断が調査報告書に示された。
今回、Harald Pruss、Alex Greenwoodたちは、ヒトの患者のための診断基準を用いて、クヌートが抗NMDAR脳炎にかかっていたと結論づけた。抗NMDAR脳炎は、自己免疫疾患の一種で、最もよく見られるヒトの非感染性の脳炎の一種だ。Prussたちが実施したクヌートの遺骸の剖検では、神経細胞に存在するNMDA受容体のNR1サブユニットと特異的に結合する抗体が、クヌートの脳脊髄液から高濃度で検出された。また、免疫染色法を用いた実験では、この抗体がラットの脳切片と結合し、免疫染色パターンがヒトの抗NMDAR脳炎患者とほぼ同じであることがわかった。以上の結果は、クヌートの死因となった脳炎を引き起こしたのが、この抗体であった可能性を示唆している。
クヌートが抗NMDAR脳炎にかかっていたのであれば、抗体を介する自己免疫疾患にはヒトだけでなく哺乳類も罹患する可能性がある、とPrussたちは考えている。
doi: 10.1038/srep12805
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