注目の論文

【気候科学】グリーンランド氷床の変遷を明らかにする

Nature

2016年12月8日

Climate science: Uncovering the history of the Greenland Ice Sheet

太古のグリーンランド氷床(GIS)の変遷に関する新たな手掛かりを示す2編の研究論文が、今週掲載される。これらの論文は、グリーンランドの氷床下の基盤岩とグリーンランド沖の海洋堆積物に宇宙線生成同位体(宇宙線生成核種)が存在していることを報告しているが、過去のGISの挙動に関しては、それぞれ異なるシナリオを提唱している。

GISは、現在の海水準上昇の主な要因であるため、過去の温暖期におけるGISの成長と安定性を解明することは、今後のGISの質量損失を予測する上で役立つ可能性がある。しかし、更新世期(260万年~11,700年前)のGISの挙動は、よく分かっていない。

今回、Joerg Schaeferの研究チームは、GIS中央部の氷床下を掘削して得られた基盤岩コアから得た元素同位体の証拠を分析した。この分析結果からは、グリーンランドに氷がほとんどなかった時期が更新世に少なくとも一度あったことが示唆されている。これは、従来のモデルシミュレーションと矛盾した内容になっている。いくつかのシナリオが存在しているが、氷のない状態が少なくとも28万年続いたと推定されている。Schaeferたちは、更新世に氷床の一部が消えずに残っていた可能性を否定できないが、Schaeferたちの分析結果は、過去数百万年にわたって大型の氷床が存続していたとする学説に異論を唱えるものとなっている。

一方、Paul Biermanの研究チームは、風化してグリーンランド沖へ運搬されたグリーンランドの基盤岩を含む海洋記録を調べた。その研究結果からは、グリーンランド東部には過去750万年にわたって地域固有の氷床が変動しつつ継続的に存在していたことが示されている。ただ、Biermanたちが用いた同位体データは、連続性があったが、グリーンランド東部だけでしか得られなかったため、Biermanたちは、この同位体がグリーンランド東部で消えずに残った氷床の一部に由来するものか、南極大陸全体で氷床の減少があったことを示しているのかを断定できない。 この2編の論文には、対照的な2つの結果が示されているが、いずれにおいてもグリーンランド東部の高地に氷床の一部が消えずに残った可能性を認める余地があるため、完全に矛盾するものとも言えない。同時掲載されるNeil GlasserのNews & Views記事では、「必要とされるグリーンランド氷床の大きさと体積の大幅かつ急激な変動を可能にする氷床の動力学過程を解明し・・・そうした変動が近い将来に再び起こる可能性を評価する」 必要性が2編の論文に明確に示されているという見方が示されている。

doi: 10.1038/nature20146

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