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【神経科学】裁判員の同情が量刑に影響することとその神経機構

Nature Communications

2012年3月28日

Neuroscience: Trial by sympathy

裁判員は、量刑を決める際に刑罰の軽減事由を考慮するが、そのとき、道徳的葛藤に関連する脳領域が活性化することがわかった。この新知見は、被告人に対する刑罰の程度が、その犯罪が行われた当時の事情に左右される可能性を示唆している。今回の研究は、裁判員の意思決定過程の解明に役立ち、感情に訴える証拠が裁判で果たしうる役割と果たすべき役割をめぐって活発化している論争にも寄与する可能性がある。研究の詳細を報告する論文は、Nature Communicationsに掲載される。

我々の意思決定過程にとって、特定の脳回路が活性化することが非常に重要で、こうした意思決定の内容は、さまざまな感情状態によって影響を受けることが多い。同情のような向社会的感情が意思決定に影響することは、これまでの研究で明らかになっているが、同情が法的結果にどのように反映されるのかという点に関する認知的、神経学的な直接証拠は得られていない。

今回、山田真希子(やまだ まきこ)たちは、実際に日本で起きた殺人事件に基づいた脚本に沿った模擬裁判を行った。それぞれの事件で、裁判員役の被験者には、刑罰を軽減できる事情が示され、この事情には、同情を引き起こすものとそうでないものが混在していた。それぞれの事件後、被験者は、自分が感じた同情のレベルを評価した。この実験で、山田たちは、同情の評価レベルが高かった事件と脳の道徳的葛藤領域(例えば、背内側前頭前野と楔前部)の活性化が相関していることを見出し、被験者が量刑を下げる意思決定を行ったとき、このことが被験者の行動に影響を与えたことを明らかにした。

今回の研究では、同情と量刑の軽減との密接な関連性を示す神経学的証拠が明らかになった。そして、この関連性は、法廷状況での行動に反映された。ただし、今回の研究で得られた知見が、裁判所での刑罰軽減事由に関するガイドラインが異なる国の陪審員においても再現できるのかどうかは、今後の研究に待つこととなる。

doi: 10.1038/ncomms1757

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