注目の論文

防御機構としての処罰

Nature Communications

2011年8月17日

Punishment as a defence mechanism

現状維持のための反社会的な処罰戦略が、進化のうえで有利な場合があるという考え方が発表された。今回の研究結果は、処罰が、協力行動を特に促進する利他的行為ではなく、処罰を行う本人を潜在的な競争相手から守るためのほとんど利己的な手段だということを示唆している。研究の詳細を報告する論文が、今週、Nature Communicationsに掲載される。 実験室における協力行動の研究では、人々がフリーライダーにコストを負担させることに積極的で、こうした処罰は、協力行動を促進する場合があることが実証されている。しかし、最近、処罰に積極的な役割があるという考え方に対しては、協力者が罰せられる反社会的な処罰の存在によって実験的に疑義が示された。 今回、D RandとM Nowakは、この反社会的な処罰を進化の枠組みで説明できないかどうかを研究した。そして、あらゆるタイプの処罰を許容する進化のゲーム理論モデルを作ることによって、自然選択が非協力者の処罰に特に有利に働くわけではないことを明らかにし、むしろ、進化によって、自由参加型公共財ゲームにおける3つのグループ(課題遂行に寄与する協力者、寄与しない裏切り者、単独で課題を遂行する不参加者)すべてを標的とする相当量の処罰が行われるようになるという考え方を示している。また、処罰によって協力行動が増えることや利益が増えることはないが、それでも処罰を行う誘因が存在することも判明した。RandとNowakのモデルによれば、処罰を行える状況が生じれば、その処罰を用いる戦略を採用する他者の優占を防ぐため、ゲームにおけるそれぞれのタイプの戦略が処罰に適応していることが必要となるのである。 また、RandとNowakのモデルでは、究極的な処罰がすべての関係者に損失をもたらし、平均利益を減らし、何らの恩恵も生み出さないことも示唆されている。 この研究では、進化モデルに加えて、インターネットを用いて収集された暫定的な実験的証拠も示されている。この実験データは、RandとNowakのモデルによる予測を裏づけており、このような論点をさらに明確にするための今後の実験のあり方も示している。

doi: 10.1038/ncomms1442

「注目の論文」一覧へ戻る

プライバシーマーク制度