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第1回「日本:材料の可能性と展望 ―日本の最先端計測技術で切り拓くモノづくり―」2013年9月24日(火)レポートブックマーク

シンポジウムは、瀬川浩司氏(東京大学先端科学技術研究センター / 産学連携新エネルギー研究施設長・教授)の「有機系太陽電池の高効率化に向けた電荷移動過程のデザイン」と題した基調講演から始まった。

太陽光を有効に活用する

瀬川浩司氏

瀬川 浩司

現在、各方面から期待されている有機系太陽電池の効率を上げるための取り組みについての話題が提供された。太陽電池による発電コストは「高い」というイメージはあるが、その技術力の進展は、当初予測されていたよりも速く、同時に発電コストも低下している。技術開発は今後約20年までに数回のパラダイムシフトを経験するだろうとも予測されている。

瀬川氏は有機系太陽電池の高効率化に不可欠な電荷移動過程の研究を行っており、太陽光をより効率的に活用できる太陽電池の開発を目指している。例えば、色素増感太陽電池は低照度で発電効率が比較的高いことが知られているが、低いエネルギーの近赤外領域の光でも発電できる新しいルテニウム化合物を用いた太陽電池の開発にも成功している。これまでの研究では、ルテニウム化合物の分子構造を操作し、スピン反転電荷移動励起を実現して太陽光の吸収波長領域を拡大し、従来の無機系p-n接合太陽電池も高電流密度となる色素(DX)を開発した。この色素は300—1050nmの波長の光をエネルギー変換することが可能であり、近赤外領域を有効に活用できなかった従来の色素増感太陽電池に、DXを用いた新開発の太陽電池と組み合わせ、高効率タンデム型色素増感太陽電池(効率13%以上)を実現することができる。

新技術開発と市場の開拓

今後の太陽電池開発の方向性として、瀬川氏は「新市場の開拓につながる新技術開発に力点を置くべきだ」と強調する。色素増感太陽電池は、さまざまな場面での活用が期待されている。これまでの太陽光電池のように、住宅用として設置・利用すること、あるいはパソコンなどのトップカバーやモバイル機器に装着して節電・省エネルギーに供することのほか、カラフルに着色できる特徴を生かして、デザイン性の高いインテリアとしての活用なども望まれる。一方で、屋外に設置する太陽電池などでは、より高い耐久性が求められる。屋根に設置して長く使いたい場合にはガラスを用い、軽量でフレキシブルな素材を求めるときにはフィルムを、というように適材適所に活用することも必要という。

色素増感太陽電は、蓄電機能を内蔵したものも実用化に近づいているとのことで、これまで太陽電池が活用されていなかった領域への幅広い展開が、太陽電池の利用拡大を進め、低炭素社会の実現に結びつくのだ。

続いての基調講演には、「スマート社会を支える高安全・高性能な定置用大型リチウムイオン電池の開発」との演題で、河上清源氏(エリーパワー株式会社取締役常務執行役員)が登壇した。 

安全性の高いリチウムイオン電池の開発

河上清源氏

河上 清源

現代社会で、蓄電池の必要性はますます高まっている。特に、今後の再生可能エネルギーを推進していくために、高性能で安定した蓄電池が求められている。再生可能エネルギーは自然現象に左右されるため、これらのエネルギーを使った発電を最適運用するためには、蓄電池を用いて安定した電力供給を行うことが必要なためだ。

さまざまな種類の蓄電池の中で、限られた土地に設置するための、効率がよく長寿命な蓄電池はリチウムイオン電池である。さらに、定置用大型リチウムイオン電池を開発・製造するエリーパワー株式会社・河上清源氏(取締常務執行役員)は、定置用蓄電池に不可欠な特性は安全性であると強調する。

エリーパワー株式会社は、正極活物質にリン酸鉄リチウムを用いた、安全性に優れ、長寿命なリチウムイオン電池セルの開発に成功した。電池の大型化と安全性はトレードオフの関係にあり、これらを両立することは難しい。この電池セルは、国際的第三者認証機関「テュフ ラインランド社」の試験技術をすべてクリアし、大型リチウムイオン電池の分野では世界で初めて「TUV-Sマーク」を取得している。

ユーザーのさまざまな使い方に応えて

リチウムイオン電池は内部短絡、外部加熱等の異常発熱によって正極の結晶構造が崩壊し、熱暴走を起こすことが知られており、これが弱点になっている。また、過充電時は正極から過度なリチウムが負極へ放出されることにより熱に鋭敏なリチウムデンドライトが形成されると共に、過充電に伴って生じる内部短絡による熱暴走の影響も加わり激しい反応を伴う。

正極活物質に用いているリン酸鉄リチウムは、結晶構造が安定しているので熱的にも安定であり、また、過充電の状況下でも熱暴走を起こすことはない。また、正極容量と負極容量のバランスを最適化することにより、デンドライトを抑制することも可能である。

リチウムイオン電池における異常発熱時の安定性を確保するためには、発生熱量 < 熱容量 + 放熱量 が成立していれば、不安定になる状況を回避できる。

定置型蓄電池は自動車の蓄電池とは異なり、いろいろな用途に供されることが予想され、「誰がどんな使い方をしても安全である」ことが求められているため、エリーパワーは開発したリチウムイオン電池をさまざまな過酷な状況下に置き、安全評価を行っている。釘刺し試験、圧壊試験においても従来のリチウムイオン電池と比べて発火するようなことはなく、安全に使用できることが保証されている。この特性は、リン酸鉄リチウムは他の材料と比べて導電率が小さく熱的にも安定であるため、外的要因で内部短絡が起こっても大きな短絡電流が流れずに安定化するためである。 リチウムイオン電池の高安定化には、正極活物質と電池構造の最適化が不可欠であることが講演された。

精密パターンを描画する超微細インクジェット技術について、村田和広氏(株式会社SIJテクノロジ代表取締役社長)による「超微細インクジェット技術を用いたミクロンオーダーの直接描画プロセス」と題した講演が行われた。

インクジェットで微細構造

村田和広氏

村田 和広

オフィスで使われる最近のインクジェットプリンターは、一昔前に比べるとずいぶん解像度が高くなったが、ここで講演されたインクジェットはミクロン単位の描画を行う、超微細インクジェット技術である。SIJテクノロジは、「超微細構造の製品をデスクトップで」を目標に技術開発を進めてきた。最近話題の3Dプリンターは、形状を付与するものであり、機能を付与するのは今後の課題になっているが、超微細構造を描画するインクジェット技術は形状とともにその素材であるナノ材料そのものによる機能も付与できる。

どれほど細かい描画ができるかといえば、米粒にQRコードを印字できるくらい、といえばその解像度を理解できるだろう。

インクジェットで立体構造を

SIJ社の技術は、サブフェムトリットル(sub fl)単位の液滴サイズを可能にしたことによるものだ。これは従来のインクジェットの1000分の1(体積比)の大きさである。カーボンナノチューブやフラーレン、強誘電体材料、バイオ系材料など種々の材料による超微細構造の描画が可能である。

これらの超微細技術はさまざまな分野に応用され、例えば有機薄膜トランジスタの製造、高配向有機単結晶薄膜の生成、人工生体膜の作製に適用されている。また、この技術を用いて立体を形成することも可能であり、立体交差配線などに応用可能である。

日本には、マーケット規模は小さいものの、トップシェア技術をもつ企業が豊富にあり、これらの企業のコラボレーションにより、さまざまな分野への応用が期待される。

続いての企業講演は、「高効率多接合タンデム型太陽電池の特性評価装置の開発及び高次元解析」と題して、タカノ株式会社常務取締役・小田切章氏と共同開発者の東京大学先端科学技術研究センター教授・岡田至崇氏からの発表であった。

常に新しい製品開発にチャレンジ

岡田至崇氏

岡田 至崇

小田切章氏

小田切 章

タカノ株式会社は、ばねの製造に始まり、先進のエレクトロニクス分野へと進展してきた企業である。工学技術製品としてカメラレンズやレーザー製品、画像処理技術を生かした液晶パネル検査や半導体やフィルムの外観欠損検査装置の製造、三次元計測技術をもとにした原子間力顕微鏡(AFM)の製造・開発など、常に新技術に挑戦している。これらの技術を太陽電池検査装置の製造に生かしている。

集光型太陽電池の評価法の確立

2050年頃には、太陽電池は有機系、新型多接合、量子ドットを利用した材料が50%程度を占めると予想されている。この頃までに予想されている太陽電池の変換効率は40%だが、NEDOとEUは集光型太陽電池の共同開発に着手し、高変換効率の太陽電池新材料・新構造の開発や集光型太陽電池の測定技術に関する標準化などを行っている。

同じ設置面積で比べれば、フラットパネル型よりも集光型のほうが発電容量は高まる。そのための太陽電池は、特有の光の波長から発電できるセル(サブセル)を積み重ね、小さな面積で効率的な発電を行うことができる多接合タンデム太陽電池である。岡田氏らは、多接合タンデム太陽電池の評価方法(SR-V法)として、各サブセルの評価項目となるさまざまな特性解析を実現できる方法を開発した。この開発は産学連携による成果であり、日本の企業と大学の研究が結びつき、優れた成果を生み出した一例である。

初日3社目の企業講演は、富士フイルム株式会社・浅見正弘氏(取締役執行役員 / R&D統括本部長)による「富士フイルムの高機能材料開発戦略」。日本の機能性化学製品の国際競争力をいかにして高めていくか、が講演された。

機能性化学品の市場特性

浅見正弘氏

浅見 正弘

シリコンウェハやカーボンファイバなどの機能性化学品の日本企業の市場シェアは極めて高く、その利益率の高さから日本企業間で激しい競争を行なうことで、国際競争力を高めてきた。また、機能性化学品の用途は多様な進化が可能であり、将来の市場形成を発展させる可能性を有している。

しかし、かつて半導体産業において、高額設備投資競争の激化とともに、日本企業のシェアがデバイスからシリコンウェハなどの材料産業に収斂したように、液晶ディスプレイ市場においてもLCD製品からLCD部材、LCD材料へと産業規模が小さいビジネスへの縮小が脅威となっている。

国際競争力の強化に向けて

これからの機能性化学品の展開の方向として、太陽光発電や省エネルギー、水浄化を扱う「環境エネルギー」と、タッチパネルや有機EL、電子ペーパーを扱う「電子材料」への展開が考えられる。スマートフォンを例にすれば、次世代CMOSや発光材料、銀透明導電膜などの新技術があらゆるところに使われている。これらの機能性化学品は、今後、電子デバイスや環境・エネルギーだけでなく、医薬品やライフサイエンス、自動車や航空宇宙産業などに重要な役割を果たすものと考えられる。

高機能の追求と知財権確保という、これまでの企業戦略に加え、国際競争力を強化するためには「カスタマイズの価値を確保するしくみの構築」と、「ものづくりとICTの融合による新たな領域の開拓を追求する」ことが必要であり、機能性化学品の新たな世界を社会・顧客と共創する展開を目指すべきと締めくくった。

会期中1回目のパネルディスカッションは、「最先端ものづくりをどうビジネスに結びつけるか?」と題して、西澤民夫氏(一般社団法人オープンイノベーション促進協議会・代表理事)、瀬川浩司氏(東京大学)、吉野彰氏(旭化成株式会社)、浅見正弘氏(富士フイルム株式会社)、山口猛央氏(東京工業大学・資源化学研究所 教授)をパネリストに、山田淳夫氏(東京大学)をモデレーターに進められた。

山田氏から、「日本企業が技術的に優位性をもつ産業であっても、先行者利益を完全に回収する前にアジア諸国の追従が起こり、やがて日本企業が敗退するという現象が見られる」との問題提起から、これをどのように克服していくかについて各パネリストからコメントが寄せられた。

西澤氏は、「現在のところ円安で日本の加工型製造業は一息ついているものの、従来からの円高、エネルギー価格の高騰及び競合先の猛烈な追い上げで、先行き楽観はできない。そのため、海外現地生産を行う製造業の割合は70%以上にも達している。一方では素材メーカー、部品メーカーの一部には高い技術力、ノウハウを有していることから世界シェアの高い企業もかなりあることはご存じのとおりである。また、中小企業の中には、シリコンバレーの企業にフリーペーパーを配布して、積極的に自社の高い技術をPRし、受注獲得により生き残りを図っているところもある。」と述べた。

瀬川氏は、「最先端技術による新しい価値の創造で、全くなかった市場を作り出すことが、日本企業には必要ではないか」と述べた。現在、世界が太陽光や風力などの自然エネルギーを求めているにもかかわらず、残念ながら日本企業のシェアはこれらの分野で低下してしまった。今後は新市場をつくり出す製品を提案するという点が重要ではないか」と述べた。

吉野氏からは「製品は真似された方が悪い、と考えるべき。かつての日本製品には、真似のできない技術が取り入れられていたはず。一歩進んでグローバリゼーションの今『真似されること』を前提に戦略を考えるべき。ただし、真似されたら2倍の利益を得るようなしくみを考えておかなければならない」と話し、「川下ビジネスのキーワードは『メンテナンス』にあるのではないか」とも述べた。

浅見氏は「機能性化学品の将来展開では、企業は広くバリューチェーンを見据えて中長期戦略を立て、顧客との『すり合わせ』によって創り上げた価値を確保していかなければならない、また、ICTと融合したビジネスモデルの構築を行うべきである」と話す。企業講演でも述べているように、「機能性化学品の新たな世界を社会・顧客と共創する展開は重要である」とも述べる。さらに、企業が顕在化していないニーズを汲み取ってビジネスモデルを構築することが、産業界にとって重要であるとの考えを述べた。

山口氏は既に広く実用化している分離膜ビジネスと、これから産業化する燃料電池ビジネスのそれぞれについて紹介した。分離膜を中心とした水ビジネスでは「分離膜という材料だけでなく、水エンジニアリング全体で利益を生み出す時代になっている。海水から飲料水をつくる逆浸透膜の日本企業のシェアは60%だ。この優位性を生かし、既存の材料とシステムを結びつけ、革新的な材料だけでなくインフラやサービスも含めてセットで展開すべき」と語る。また、これから市場が立ち上がる燃料電池では、「膜や触媒という材料開発だけで無く、システムにまで広げて全体で考えなければ、真に必用な材料開発は行えない。水素ステーションなどのインフラ整備も考慮し、いつ、どのタイミングで、何を武器にビジネス展開するかを考えて参入すべき」と述べている。

初日の締めくくりには、吉野彰氏(旭化成株式会社フェロー)による「リチウムイオン電池 現在・過去・未来」と題した基調講演が行われた。

リチウムイオン電池の開発

吉野彰氏

吉野 彰

リチウムイオン電池は携帯電話などのIT機器の電源として広く使われてきており、これからは電気自動車などへの展開が始まっている。このリチウムイオン電池の研究は、導電性高分子ポリアセチレン(PA)から始まったものである。水系電解液を用いる電池では、水が1.5Vで電気分解してしまうため、それ以上の起電力は実現できない。高エネルギー・高容量・高電圧の電池の実現のためには、非水系有機電解液を用いる電池が必要である。非水系有機電解液を用いた充電可能な二次電池を開発していた当時の1980年代前半には、金属リチウムに代わる新しい負極材料が必要とされており、この材料としてPAに注目した。しかし、PAは比重が小さすぎ、軽量化は実現できても小型化が難しいこと、また化学的な不安定性があり、断念せざるを得なかった。このころ、旭化成の繊維開発研究所からカーボンの新素材を入手し、試してみたところ負極材として当時のカーボン素材より遥かに優れた特性を有していることがわかり、この材料を用いてリチウムイオン二次電池が誕生した。

電池として市場に投入するためには、安全性がもっとも重要な要素である。開発したリチウムイオン電池は、この点も無事クリアし、開発研究が進められていった。

リチウムイオン電池普及の第二の波

リチウムイオン電池の市場が爆発的に拡大したのは、IT変革である。事業化された後、このような変革が起こるとは想像できなかった。リチウムイオン電池の市場形成を見てみると、今まさに第二の波が到来している。しかし、その変革は何であるかは過ぎてみないとわからない。吉野氏は、この波が「ET(Environment & Energy Technology)変革」であろうと予測する。

リチウムイオン電池が市場を拡大した決定打は、1995年の第2世代(デジタル)携帯電話に搭載される充電池であったと振り返る。このとき、3VのIC駆動電圧のためにリチウムイオン電池1本で実現できたのだ。

では、吉野氏が予測するET変革でのリチウムイオン電池の波を形成する技術は何か。起電力が数百ボルトの電池を実現するためのバイポーラ電極技術、あるいは移動体ワイヤレス給電を可能にする電磁誘導型/電場・磁場共鳴型/電波受信型の給電技術であると話す。特に、移動体ワイヤレス給電は電気自動車の普及とともに、いつでもどこでも走りながら充電できる技術として極めて有望であることから、これらの方面での開発が望まれると締めくくった。

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