|
|
|
|
|
|

再生についての話
イモリにできて、どうして人間にはできないの? ローマに近いモンテロトンドにある欧州分子生物学研究所(EMBL)のマウス生物学プログラムの責任者、Nadia
Rosenthalの心をとらえて放さない疑問である。
イモリは足が切断されてもとの通りに再生できるが、哺乳類の場合は、小さな傷でもゆっくりと、それも質の劣った瘢痕組織を作って修復することしかできない。だがRosenthalは、イモリの回復力は哺乳類のゲノムにも隠れていて、適当に刺激すれば、目覚めるのではないかと考えている。そんな彼女にとってマウスゲノムは、再生医療の分野で始まっている大変革に大いに役立ちそうな期待のもてる情報である。「わたしの研究はまだ仮説に基づいて動いている状態だけれど、マウスゲノムの解読でまったく新しい世界が開けたわ。」
Rosenthalは、すでにいくつか興味深い結果を出している。たとえば、筋肉で成長因子IGF-1を過剰に発現するトランスジェニックマウスは、上腕二頭筋がアーノルド・シュワルツェネッガーのように発達するという。その原因の1つは、骨髄から幹細胞が流入して、新しい筋肉細胞になることらしい。他の研究グループとともにRosenthalも、筋ジストロフィーのような変性疾患のモデルマウスで、IGF-1が筋肉が減るのを遅らせたり、筋肉を増やしたりすることを発見した。
Rosenthalは現在、IGF-1が再生を促すしくみを詳しく調べている。どのようにして幹細胞を筋肉に定着させるのだろう。そして、どのようにして幹細胞を筋肉へと分化させるのだろう。幹細胞が筋肉へと変化する途中の各段階で、どのような遺伝子がオンになったりオフになったりするのだろう。これを調べるため、RosenthalはDNAマイクロアレイを使って、同時に何百個もの遺伝子の発現を解析している。「でも、ある特定の段階でどの遺伝子が活動しているかを突きとめればすむほど生体反応は簡単ではないから、遺伝子を調節する遺伝子、つまり調節因子やスイッチのこともすべて知りたくなる。そしてそれに役立つものと言えば、全ゲノム情報だけしかない。」
将来的には、マウスゲノムを他の生物種のゲノムと比較することでさまざまなことがわかるだろうと、Rosenthalは確信をもっている。「再生力の強い生物、再生力の弱い生物のゲノムの同じ遺伝子に注目することで、多くのことが解明できるはず。」また彼女は、フィラデルフィアのウィスター研究所で作られたMRLというマウス系を使った研究をしたいと考えている。このマウスは驚いたことに、瘢痕を残さずに心臓の損傷を修復できるという。
Rosenthalは昨年、ハーバード大学からイタリアのEMBLに派遣されたチームに加わって、他の5グループと協同してマウス生物学研究への遺伝学的、ゲノム科学的手法の応用を試みる機会を得た。一緒に参加した研究者たちも皆、マウスゲノムがもたらすさまざまな可能性に夢中になっている。
ゲノム配列を本当に心から待ち望んでいたと語るのは、モンテロトンの神経生物学者Liliana Minichielloで、彼女のグループは神経成長因子が引き金となる細胞の複雑な情報伝達経路の調節機構の解明に取り組んでいる。「今や、わずかな情報の切れ端からでも、関心のある遺伝子を非常に簡単に同定できるようになった。」のである。
|
|
|
|
|
|